アンチエイジングと遺伝子とサーチュイン
アンチエイジングには興味ある。
遺伝子、サーチュイン、長寿遺伝子???
まったくわからない。
健康やアンチエイジングに興味をもちはじめたけれど、くわしいことがわからなくてどうすればいいのかわからない。
では、そういう生物学の用語を使わずに・・・。
・・・ではなく、生物用語をふくめてわかりやすく説明したい。
それが今回の記事になります。
なじみがあるけどよくわからない
どうしてアンチエイジングに使われる用語はむずかしいのか!?
アンチエイジングは、名前のとおり抗老化ということなので、人にとっては永遠のテーマともいえます。
アンチエイジングの分野では、サーチュイン、たんぱく質、酵素、遺伝子、DNA、mRNA、アミノ酸、リボソーム、塩基、ATP、NMN、NAD、NAMPT、SIRT1など、なじみのある単語から、なじみの薄い単語までが幅広く出てきます。
なじみのある遺伝子や酵素、たんぱく質などでも、それが本当にどういうものなのかよくわかっていないこともあるかもしれません。
アンチエイジングの効果について説明されている場合、たんぱく質は栄養素としての意味ではなく、酵素など機能をもったたんぱく質という意味で説明に使われることがあります。
特に、動物の筋肉の部分にたんぱく質が豊富なことから、たんぱく質は筋肉だという誤解も生じかねません。
研究者にとっては、「酵素はたんぱく質」だとわかりきっていることですが、一般的に酵素がたんぱく質だという前提で話されてもまったく意味不明です。
なんとなくなじみのあることばだからこそ、よけいに混乱してしまうこともあります。
消化や代謝のための化学反応を引き起こすための酵素がたんぱく質だということなど、前提を補足する知識がないときは、話しの趣旨に検討をつけることが困難です。
また、一般に、遺伝子とDNAとゲノムという単語は、あまり区別されることなくほぼおなじ意味として使われますが、実際にはそれぞれ異なるものを指しています。
さらには、遺伝子といっても、なんとなく一般用語として浸透しているので、遺伝子が物体なのか概念なのかといったことで混乱することもあります。
通常は、不要だと思われる説明をかなり割愛してアンチエイジングやサーチュイン、遺伝子、DNAといった関係について説明されています。不要な説明を割愛することで、わかりやすくなる反面、あらたな疑問や混乱が生じます。
なんとなくのしくみは理解できそうな気がしますが、「ん? それってどういうこと?」という疑問も大量に発生してしまいます。
とくに「たんぱく質」と「遺伝子」はなんとなくなじみのある単語ですから、くわしい説明がはぶかれてしまう部分です。
そこで、説明がはぶかれがちなたんぱく質や遺伝子などについて解説していきます。
たんぱく質
人のカラダの約15%はたんぱく質で構成されています。
たんぱく質は、アミノ酸が結合したものです。動物の肉や卵、大豆などたんぱく質をふくむ食品が多くがありますが、こういったものもアミノ酸がたくさんつながったものがその食品中に多く含まれるということになります。
人のカラダを構成するたんぱく質をつくるためのアミノ酸には20種類あります。
ぎゃくにいうと、20種類のアミノ酸がさまざまに組み合わさって、カラダではいろいろなたんぱく質が存在しています。
20種類のアミノ酸のうち体内で合成できるのは11種類、体内で合成できないのは9種類です。
体内で合成できるアミノ酸は、かならずしも食事から摂る必要がないという意味で、非必須アミノ酸といわれます。ただし、体内で合成できるとはいうものの、食肉、卵、牛乳などには非必須アミノ酸がふくまれていますので、食事として摂取することで体内で使われています。
体内で合成できないアミノ酸は、必須アミノ酸といわれています。必須アミノ酸は、人のカラダに必要な成分なのですが、体内でつくることができませんので、健康維持のためにも食事から摂取する必要があります。
ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン
アルギニン、グリシン、セリン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、プロリン、シスチン、チロシン
アミノ酸からたんぱく質へ
たんぱく質は多くのアミノ酸が連結されてつながってまとまりになったものです。
一般に、つながっているアミノ酸が50コまでのかたまりは、ペプチドとよばれています。50以上のアミノ酸がつながっているものをたんぱく質と呼んでいます。
構成するアミノ酸の数や種類、そして結合の順序などによっていろいろな種類のたんぱく質があります。アミノ酸の構成やつながり方によってたんぱく質は体内でいろいろな働きをしています。
たとえば、筋肉の収縮には、ミオシンやアクチンといった収縮たんぱく質が働いています。筋肉の収縮にはたんぱく質がかかわっているのです。
筋肉を構成している筋原線維には収縮たんぱく質、調節たんぱく質、構造たんぱく質といったたんぱく質があります。筋肉が縮むためには、たんぱく質の機能が必要というわけです。筋肉に豊富なたんぱく質がふくまれているのは、このためです。筋肉の収縮活動のためにたんぱく質が活躍しています。
ホルモン、酵素、刺激を受けとるレセプターなどで、たんぱく質がその機能性を発揮しています。
たんぱく質というと一般的には、肉や卵などをイメージすることが多いかもしれませんが、人の体内で生成されているたんぱく質は、筋肉のように大きなものから、細胞内でつくられる酵素のように小さいものまでさまざまにあります。
酵素
食べたものを消化したり、吸収してエネルギーにしたり、新しい細胞をつくったりと、カラダのなかではつねにいろいろな反応が起こっています。
消化酵素、代謝酵素などの「酵素」はおもにたんぱく質からできています。酵素は、消化・吸収・代謝などの化学反応を体内で促進させるものです。
酵素があることで、カラダのなかの化学反応がすすむようになります。
食べたものを「消化」「吸収」「代謝」する場合にも酵素は欠かせません。
消化酵素には、でんぷんをぶどう糖に分解するアミラーゼ、たんぱく質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、脂肪を脂肪酸に分解するリパーゼなどがあります。
私たち人間が体内に持つ酵素は、5,000種類以上あります。
それぞれ種類によって、ブドウ糖に作用するのか、脂肪に作用するのかなど作用する相手がことなります。
酵素の作用する相手を基質といいます。アミラーゼはでんぷんを分解しますので、でんぷんはアミラーゼの基質です。ウレアーゼという酵素は尿素を分解するので、尿素はウレアーゼの基質です。
酵素は、細胞内で産生されます。そのまま、細胞内で利用される酵素もあれば、産生された細胞から抜け出してカラダの別の場所で作用する分泌型酵素もあります。
胃の細胞内でつくられたアミラーゼという消化酵素は、細胞から外に出て胃に入っているデンプンを消化します。
触媒
酵素は、カラダで起こる化学反応に対して触媒として機能するたんぱく質です。
触媒は、特定の化学反応の反応速度を促進する物質で、しかも、化学反応の前後で、その触媒自身は変化しない特徴があります。
アミラーゼがデンプンを分解したあとも、アミラーゼはアミラーゼのままです。
触媒には、無機触媒と生体触媒があって、生体触媒を酵素と呼んでいます。
無機触媒は、名前のとおり、触媒としてはたらく無機物のことをいいます。
無機物は、有機物以外のすべての物質です。
有機物とは、炭素をふくむ化合物のうち、一酸化炭素や二酸化炭素のようにかんたんな構造の化合物をのぞいたものをいいます。有機物には、炭水化物、脂肪、蛋白質のほか、人工的に合成されたものも含めて無数の有機化合物があります。
カラダで起こる化学反応に対して触媒となるたんぱく質が酵素で、触媒としてはたらく無機物が無機触媒というわけです。
未燃焼燃料を二酸化炭素や水、窒素などへ転換するために白金、ロジウム、パラジウムなどの金属が無機触媒として用いられます。
細胞
感覚的にもわかることですが、細胞にはさまざまな種類があって見た目や働きはそれそぞれちがいます。皮膚細胞、脳細胞、肝細胞など種類も働きもことなります。
細胞は、水、糖質、脂質、アミノ酸、核酸などから構成されています。
細胞1つひとつには、そのなかに核、DNA、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどが格納されています。細胞内では、酵素をつくったり、エネルギーを産生したり、つくった酵素を細胞外に運んだりと、とても複雑なことがいろいろとおこなわれています。
脂肪細胞といえば、細胞内に貯蔵された脂質が印象的ですが、もちろん、脂肪細胞にも核やミトコンドリアが存在しています。
細胞の種類は、人では、血球、筋肉細胞、皮膚細胞、神経細胞、脂肪細胞、などおよそ270種類あります。
細胞は核と細胞質、細胞膜から構成されています。細胞膜に包まれた内部の物質のうち核以外の部分を細胞質といっています。
細胞質には、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体など、さまざまな機能と構造をもつ小さな器官(細胞小器官)があります。 細胞小器官どうしの間は、水、酵素、アミノ酸、グルコースなどで満たされていて、細胞質基質と呼ばれています。
DNAの化学的構造
細胞の核には、DNAがおさまっています。このDNAが遺伝情報をもっています。
DNAがもっている遺伝情報の全体をゲノムといっています。人の場合、ゲノムの99%はすべての人で共通している情報になります。
細胞の核のなかにあるDNAは、ヌクレオチドとよばれる物質からできています。ヌクレオチドは、リン酸、糖(デオキシリボース)、塩基からなる化合物です。つまり、デオキシリボースという糖にリン酸と塩基が結合してできたものがヌクレオチドです。
このヌクレオチドがおよそ30億コつながって1本のヒモ状になって、さらに、対になる30億コのヌクレオチドのヒモ状のものが合体して、ねじれるようにして二重螺旋構造をとることでDNAを構成しています。
ヌクレオチドが紐状にたてにつらなったもの2本が対になって、それがねじれるように二重螺旋構造になったものがDNAです。
デオキシリボースに結合する塩基
デオキシリボースに結合する塩基には4種類あります。
アデニン(adenine)、チミン(thymine)、シトシン(cytosine)、グアニン(guanine)という4種類の塩基のうちいずれかがデオキシリボースに結合して、1つのヌクレオチドを形成しています。
DNAの塩基配列と遺伝情報
核内には、女性由来のDNAが23本、男性由来のDNAが23本が入っています。
女性由来、男性由来いずれも、23本はべつべつの遺伝情報をもっているべつもののDNAです。つまり、すべてのDNA情報が23分割されて核内におさまっているともいえます。
DNAは、たとえば目の色の情報、髪質の情報などのあらゆる形質に関する情報を保持しています。30億コの塩基配列がありますが、それぞれDNAの場所によってどの部分が目の色の情報なのか、髪質の情報かなのかが決まっています。
核にある23本のDNAを1本につなぎあわせたとして、その1本のDNAの場所によってなにの情報をもっているかが決まっています。
女性由来のDNA23本と男性由来のDNA23本をもっていますが、たとえばひとえのまぶたの情報をもつ女性由来DNAとふたえのまぶたの情報をもつ男性由来DNAをもっていて情報が対立している場合などがありますが、それぞれ適切に処理されて形質が発現します。
ふだんのDNAはXのかたちをしていない
DNAは、ヌクレオチドが30億コもつらなった物質です。このDNAがヒモ状のまま存在しているわけではなく、ヒストンという筒状のタンパク質に巻きついて存在しています。このたんぱく質に巻きついている構造をヌクレオソームいいます。ヌクレオソームはさらに凝集して折り畳まれ、染色質という繊維状の構造を取っていると考えられています。
細胞が分裂するときには、染色質の繊維の状態からさらに寄り集まって凝縮し、染色体という構造をとるようになります。
教科書や資料などで一般に見かけるこのXのかたちをした染色体は、細胞分裂のときに染色質がさらに凝集することで明瞭になる構造です。ですから、細胞分裂と関係ないときは、Xのような一般的に知られる染色体のかたちをしているわけではありません。また、DNAがどのように染色体という構造をとるのか、正確なところはわかっていません。
DNAとたんぱく質
これまでの説明のとおり、DNAは遺伝情報を保持しています。目の色、まぶたの形状、髪質などさまざまな人の形質を決定しています。一卵性双生児の外見が似ているといったことからも、DNAが遺伝情報を保持していることは経験的に理解しやすい部分でしょう。
DNAのもう1つの機能として、たんぱく質合成があります。
人のカラダは、DNAがもっている莫大な情報のうち必要な一部の情報(塩基配列)を読み取って、その情報を設計図にしてアミノ酸からたんぱく質をつくりだしています。
デオキシリボースにリン酸と糖が結合したヌクレオチドがたくさんつながってDNAができていることは前述のとおりです。
また、デオキシリボースに結合する塩基には、アデニン、チミン、シトシン、グアニンの4種類の塩基があります。
アデニン、チミン、シトシン、グアニンの4種類の塩基が30億コつながっていますが、この塩基のならびを塩基配列といいます。
このDNAの塩基配列の一部がたんぱく質を作成するための設計図のようになっています。
たとえば、コンピューターは、0と1がつらなったもので情報処理して、処理した結果をアウトプットしています。あるいは、モールス信号であれば、短点(短い音)と長点(長い音)の組み合わせを読み解くことで文章を作成することができます。
DNAの塩基配列の場合は、アデニン、チミン、シトシン、グアニンの4種類のならび順が情報として処理されます。
塩基配列がアデニン・アデニン・アデニンとならんでいたらリジンというアミノ酸を使用する、アデニン・シトシン・グアニンのならびならトレオニンというアミノ酸を使用するというように塩基配列の組み合わせによって対応するアミノ酸が決まっています。
細胞内では、この塩基配列の対応にしたがってアミノ酸を順序どおりに結合させてたんぱく質をつくりだすはたらきがあります。
たんぱく質は、たくさんのアミノ酸が結合してできたものです。
代謝や消化などの化学反応を起こさせる触媒が酵素で、この酵素もたんぱく質であることは前述のとおりです。
アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、それからサーチュインなど、あらゆる酵素がDNAの情報をもとに細胞のなかでつくられます。
また、このたんぱく質をつくりだすための設計図になっているのは、DNAの一部です。つまり、30億コの塩基配列のうちの一部分がたんぱく質をつくるためのアミノ酸の組み合わせを決定する設計図のはたらきをしています。
このたんぱく質をつくるための設計図の役割をはたしている部分を遺伝子とよんでいます。
つまりDNA=遺伝子ではなく、DNAの一部が遺伝子です。その遺伝子は、たんぱく質を細胞内でつくるための設計図のはたらきをしています。
サーチュインとサーチュイン遺伝子
若返りやアンチエイジングとして期待されているサーチュイン遺伝子ですが、サーチュイン遺伝子を活性化させるとDNAが修復されてわかわかしい細胞を保つことができるといわれています。
サーチュイン遺伝子は、23対あるDNAのなかの一部分です。30億個の塩基配列のうちの一部分にサーチュインに関する情報が保存されています。
サーチュインという酵素をつくるための塩基配列が記録されているDNAの部分をサーチュイン遺伝子といっています。
つまり、細長いDNAのうち、サーチュイン酵素をつくる設計図の部分がサーチュイン遺伝子です。このサーチュイン遺伝子の情報をもとにして、アミノ酸を結合させていくことでサーチュイン酵素がつくられます。
サーチュイン遺伝子もサーチュイン酵素も、どちらもサーチュインという名前で、しかも、遺伝子の話なのか酵素の話なのか区別する必要がない場合は、たんにサーチュインと呼ばれることもあって、混乱しがちではあります。
サーチュイン遺伝子は名前のとおり遺伝子です。ですから、DNAの塩基配列の一部分を指します。この塩基配列に対応するアミノ酸をつなぎあわせることでできあがるたんぱく質がサーチュイン(酵素)ということになります。
サーチュイン遺伝子とアンチエイジング
サーチュイン遺伝子が活性化されてサーチュイン酵素が活発に活動すると、DNAが修復されて細胞がわかわかしい状態になることがわかっています。サーチュインは酵素です。酵素は、触媒のはたらきをすることを前述しました。触媒とは、カラダのなかの化学反応を促進させるものです。
サーチュイン(酵素)は、カラダのなかで脱アセチル化という化学反応を促進します。この反応がDNAの修復に寄与していると考えられています。
端的にいうと、サーチュイン遺伝子を設計図にしてつくられたサーチュイン(酵素)がDNAを修復するための化学反応を促進しているということです。
サーチュイン遺伝子の活性化
サーチュイン遺伝子の活性化には、NADという補酵素が重要だと考えられています。加齢にともなって、体内のNAD量は減っていくことがしられています。NADを食事から摂取して体内に取り込めればいいのですが、NADは不安定な物質なので、消化吸収のときに変化してしまって、NADとして体内に取り込むことは基本的にはできません。
アンチエイジングのためには、サーチュイン遺伝子を活性化させることができる食品が期待されています。
なかでもレスベラトロールやNMNは、栄養補助食品(サプリメント)として摂取できるもので、サーチュイン遺伝子を活性化したり体内のNAD量を増やすことが報告されていて、その効果が期待されています。