サーチュインの活性化と健康
サーチュインは人の体内で生成される酵素のことで、サーチュインを活性化することでDNAが修復されることから長寿遺伝子とも呼ばれているものです。
サーチュイン(sirtuin)は、酵母の「SIR2遺伝子」から命名されました。
哺乳類では、7種類のサーチュイン遺伝子が見つかっていて、SIRT1、SIRT2・・・SIRT7と順に番号が振られて名前がつけられています。
サーチュインを体内で活性化することができれば、寿命がのびることがわかっています。
サーチュインは、適度なストレスがくわえられることで活性化することが知られています。
たとえば、適度な運動、間欠的な絶食によって、サーチュインは活性化します。
サーチュインの脱アセチル化酵素
サーチュイン遺伝子から生まれる酵素(たんぱく質)はサーチュイン酵素と呼ばれていて、その働きから「脱アセチル化酵素」とも呼ばれています。
脱アセチル化というのは、DNAが巻きついているヒストンというたんぱく質からアセチル基を外すことをいいます。DNAはとても細長くたくさんのヒストンという円柱状の糸巻きのようなものに巻きついて折りたたまれるようにして染色体を形成しています。
サーチュインはDNAのヒストンへの巻きつくつよさ(加減)を制御します。
ヒストンが脱アセチル化されると、DNAのヒストンへの巻きつきがつよくなります。DNAのヒストンへの巻きつきがつよくなると、その部分の遺伝情報が読み取れなくなります。
ぎゃくにアセチル化してアセチル基が結合すると、DNAの巻きつきがゆるみます。これによってゆるんだ部分の遺伝情報が読めるようになります。
アセチル化でDNAの巻きつきがゆるむとDNA情報が読み取れるようになってたんぱく質の合成が開始されます。
サーチュインとエピゲノム
エピゲノムとは、どの遺伝子を読み取り可能にして、どの遺伝子を読み取り不可能にしておくかを調節するためのしくみと構造の総称です。
DNAの配列そのものがもっている遺伝情報のうち、どの情報を使えばいいかを指し示してくれるのがエピゲノムです。
DNAの遺伝情報が図書館にあるすべての書籍だとすると、エピゲノムはすべての書籍からどの書籍が心臓細胞について書かれたものか、また、脳細胞について書かれたものかなどを指し示してくれます。
エピゲノムとサーチュインは密接に関係しています。
サーチュインは、脱アセチル化などの作用によって、遺伝情報の読み取り可能/不可能を制御する役割を担っています。つまり、サーチュインが遺伝情報の読み取り可能/不可能に対して適切に対処することで、細胞が適切に機能するようになると考えられています。
サーチュインが図書館の本を整理していることで、必要なときに必要な本にたどり着くことができることに似ています。
サーチュインは、エピゲノムに対して非常に重要な役割を果たしているといえます。
サーチュインを活性化させると、DNAが損傷してもエピゲノムを若い状態にたもつことができます。
また、サーチュインは慢性炎症を抑制して、ミトコンドリアの機能を高める働きももつとされています。これによって、動脈硬化症、代謝異常、潰瘍性大腸炎、関節炎、喘息のリスクを下げることができると期待されています。
加齢とサーチュインの活性
サーチュインは、人の体力や健康、抗老化などにふかくかかわっていて、生存に対して重要な役割をになっているとされています。
サーチュイン酵素は、加齢にともなって発症リスクが高まる糖尿病、心疾患、認知症、骨粗しょう症、がんなどの発症リスクを下げると考えられ、その効果が期待されています。
加齢にともなってサーチュインの働きは大幅に衰えていきます。ですので、加齢にともなってサーチュイン酵素が減少することで老化が進行し、あらゆる疾患のリスクが高まると考えることもできます。
細胞1つひとつが若く元気な状態からDNAの損傷が発生しはじめ、それによってDNAや遺伝情報が不安定になります。すると、DNAのヒストンへの巻きつきも修復されず、エピゲノムが不安定になります。
やがて細胞が劣化して機能が低下していくことになります。
こうして細胞は老化を進行させて、病気が発症し始めることになります。
これが、老化についての1つのモデルと考えられています。
サーチュインの特徴
マウスによる研究によると、サーチュイン酵素を活性化することでDNAの修復がすすんで、記憶力向上、運動持久力向上がみられ、またマウスが太りにくくなったことが報告されています。
サーチュイン遺伝子は、比較的に活性化させやすい特徴をもっているといわれています。
このため、人為的にサーチュイン遺伝子を活性化させて、抗老化作用を得られるのではないかと期待されています。
つまり、サーチュイン遺伝子を活性化させると健康にいいことがありそうだとわかっても、活性化させるのがむずかしければ意味がありません。
サーチュイン遺伝子は、比較的、活性化させやすくその意味でも利用価値の高さが期待されて、さかんに研究されています。
そのほかの長寿遺伝子
サーチュイン遺伝子のほかに、長寿遺伝子として知られているのはTOR(ラパマイシン標的たんぱく質)とAMPKをつくる遺伝子です。
サーチュイン、TOR、AMPKは、いずれも適度なストレスがかかると、健康増進にむけて機能を発揮すると考えられています。
適度なストレスとは、適度な運動、低たんぱく質食、ゆるい絶食などがあげられます。
DNAはいろいろな場面で損傷します。有害な化学物質や放射線にさらされるような場合ももちろん損傷を受けます。それだけでなく、ごく日常的なDNAの複製プロセスでも損傷は起こり得ます。
適度なストレスによってサーチュインが活性化したりすることで、日々、DNAの修復などがおこなわれています。
サーチュインの活性化
サーチュインは、適度なストレスで活性化することが知られていますが、なかでも、カロリー制限することで活性化することがわかっています。
アカゲザルにカロリー制限をした研究があります。
アカゲザルは、遺伝的には人間のいとこにあたるといわれています。アカゲザルの寿命は最大で40歳ということが知られていました。アカゲザルにカロリー制限をしたところ、20頭のうち6頭が40歳まで生きたことが報告されています。人でいうと120歳に相当します。
カロリー制限による寿命の延伸は、高齢になってから開始しても効果があるといわれています。ただ、開始時期が早ければ延伸幅は大きいと報告があります。
また、間欠的な断食でも類似の健康効果が得られることが研究報告されています。
たとえば、月に5日間だけカロリーを大幅に制限した研究があります。これを実施した被験者は、3ヶ月で体重が減少し、体脂肪が減り、血圧が減少したと報告されています。
サーチュイン活性化の成分
カロリー制限によってサーチュインが活性化することがわかっています。これを受けて、同様にサーチュインを活性化させる食品成分がないか、さかんに研究されています。
レスベラトロール、NMN、NR、NAD、フィセチン、ブテインのほかたくさんの成分がサーチュインを活性化させることが報告されています。
レスベラトロールの場合、特定のがん、心臓病、脳卒中、炎症性疾患に対して予防効果を発揮するとの研究報告があります。
マウスの実験によれば、レスベラトロールと間欠的な断食を組み合わせることで平均寿命と最大寿命をのばすことができるという結果が示されています。
レスベラトロールがサーチュインを活性化させる可能性について研究されたことにより、カロリー制限以外にもサーチュインを活性化させる可能性が示されました。
サーチュインの燃料
サーチュインが活性化してうまく働くためにNADが重要な役割を果たしています。
十分な量のNADが体内に存在していることではじめてサーチュインはうまく働くことができます。
サーチュインを活性化させる成分の候補は数多く発見されていますが、サーチュインのいわば燃料のように直接関係しているのはNADです。
体内で生成されるNADの量は、加齢とともに減少していくことが知られています。NADが減少することでサーチュインが働けなくなることから、DNAの修復が追いつかなくなり、各細胞の機能が低下してくのではないかと考えられます。
NADの前駆体
前駆体とは、生化学反応において特定の生成物の前の段階にある一連の物質をいいます。
NADの前駆体という場合、体内でNADが生成される一歩手前の成分という意味になります。
NMNやNRはNADの前駆体の1つです。
順序としては、NMNを摂取するとNADが体内で生成され、NADがサーチュインを活性化させるということになります。
NMNは、人の細胞内でもつくられているもので、また、アボカド、ブロッコリー、キャベツなどにも含まれているものになります。
まとめ
サーチュイン遺伝子からサーチュイン酵素がつくられる。
サーチュイン遺伝子は、長寿遺伝子とも呼ばれ、活性化することで寿命が伸びることが期待されている。
NADはサーチュインの燃料のような役割をしており、体内にNADがないとサーチュインは働くことができない。
NADが十分にあると、サーチュインは活発に働くことができる。
サーチュイン遺伝子は、損傷したDNAを修復する。
サーチュイン遺伝子を活性化するには、適度な運動、カロリー制限があげられる。
NADの前駆体であるNMNがサーチュイン遺伝子を活性化することが期待されている。