脂質とオメガ3系脂肪酸の効果

脂質とオメガ3系脂肪酸の効果

えごま油、アマニ油、DHA、EPAといった油は、オメガ3系脂肪酸という脂質に分類されています。このオメガ3系脂肪酸は、適切に食事から摂取することで、アレルギー、心血管疾患の改善や、脳機能の向上の可能性が期待されています。

オメガ3系脂肪酸の健康への影響を中心に脂質の基本についてご紹介します。

脂質と脂肪

脂質は、人のエネルギー源になる栄養素の1つです。
たんぱく質、炭水化物、脂質の3つがエネルギー産生栄養素と呼ばれています。

脂質と似たことばに「脂肪」がありますが、学問的に精密に定義されているものではありません。「これは脂質、これは脂肪・・・」というように正確に区別されているわけではありません。

人の体の脂肪細胞には中性脂肪が蓄えられています。このことから、皮下脂肪や内蔵脂肪のように脂肪細胞にたくわえられた中性脂肪を「脂肪」と呼んで、栄養素として機能する脂肪ぶんを栄養学的に脂質と呼んでいることが多いようです。

一般的に、その文章中でなにも説明されていない場合は、脂肪でも脂質でも同じ意味で使われていると考えて問題ないでしょう。

人のカラダの構成(体組成)

脂質というと、とかく「減らすべき」「摂らないほうがいい」「ダイエットの敵」のようなイメージがあるかもしれません。

けれど、脂質でもたんぱく質でも炭水化物でも摂りすぎたエネルギーが、体内で中性脂肪として蓄積されます。脂質を摂ると、即それが皮下脂肪になってしまうというわけではありませんし、炭水化物だから皮下脂肪や内臓脂肪とは関係ないということでもありません。

また、脂質は、細胞膜の材料になったり、脳の大部分で使われているものです。脂質を摂取せずに健康を維持することはむずかしいといえます。

人のカラダは、水分が60%、タンパク質16%、脂質:16%、その他ミネラルや糖質が数%の割合でできています。また、脳から水分をのぞくと、その60%が脂質で構成されています。

脂質は、人が活動するためのエネルギー源として使われているほか、細胞膜を構成するための成分として使われたり、脳を構成するための材料として使われたり、脂肪細胞に中性脂肪としてたくわえられたりしています。

炭水化物(糖質)は、おもにエネルギー源として使用されるだけですが、脂質は、たんぱく質とならんで、体を構成するたいせつな要素になっています。

脂質には種類がある

植物油やその他一般的な食品にふくまれる脂質は、おもに中性脂肪です。

中性脂肪は、グリセロールに、3つの脂肪酸が結合してできています。脂肪酸にはさまざまな種類があって、脂肪酸の種類によって脂質の特性が決まってきます。

動物性の食品の脂質には、ステアリン酸、パルミチン酸が多くふくまれています。大豆油、コーン油などはリノール酸と呼ばれる脂肪酸を多くふくむ脂質です。

性質のことなる脂肪酸3つがグリセロールに結合して中性脂肪として動植物の組織に含まれているということになります。

脂肪酸の炭素数

脂肪酸は、炭素と水素からできています。

たとえば、コーン油などにふくまれるリノール酸は炭素が18コ、ココナッツオイルなどにふくまれるラウリン酸は炭素が12コで構成されています。
一般に、炭素数が6未満が短鎖脂肪酸、6から12コが中鎖脂肪酸、13から21コが長鎖脂肪酸、22コ以上が超長鎖脂肪酸と呼ばれています。

MCTオイルは中鎖脂肪酸の英語表記Medium Chain Triglyceridesの頭文字をとったものです。ちなみに、中鎖脂肪酸といった場合、1つの脂肪酸だけを指すわけではありません。炭素が8のカプリル酸、炭素が10のカプリン酸、炭素が12のラウリン酸などがあります。

脂肪酸の二重結合

脂肪酸には、結合している炭素の数で分類されているほか、炭素どうしの結合に二重結合があるかどうかによっても分類されています。

脂肪酸を構成する炭素どうしに二重結合がなく、すべての炭素が単結合で構成されている脂肪酸は、飽和脂肪酸と呼ばれています。たとえば、動物肉にふくまれる脂身の部分にはパルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸が豊富にふくまれています。

脂肪酸を構成する炭素に二重結合があるものは、不飽和脂肪酸と呼ばれています。
また、メチル基(下図でCH3となっている一端)の炭素から数えて何番目に二重結合があらわれるかによってオメガ3系、オメガ5系、オメガ6系、オメガ7系、オメガ9系などに分類されています。

メチル基の炭素から数えて3コめと4コめの炭素に二重結合があらわれる場合はオメガ3、6コめと7コめの炭素に二重結合があらわれる場合はオメガ6、9コめと10コめの炭素に二重結合があらわれる場合はオメガ9というように分類されます。

ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)は、3番めと4番めの炭素に二重結合があらわれるので、オメガ3系に分類される脂肪酸になります。オメガ3系脂肪酸は、ほかにはαリノレン酸が代表的です。


少し複雑ですが、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の分類についてまとめて補足すると、つぎのようになります。

炭素どうしの結合に二重結合があるかないかで、二重結合がなければ飽和脂肪酸、二重結合があれば不飽和脂肪酸です。

二重結合を1つだけもつ脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と呼ばれ、オリーブオイルに豊富にふくまれるオレイン酸が代表的です。

二重結合を2つ以上もっている脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と呼ばれています。多価不飽和脂肪酸は、体内で合成できないことから必須脂肪酸とされていて、食事から摂取して補給する必要があります。

また、不飽和脂肪酸は二重結合が何番めの炭素に二重結合があるかで、オメガ3系、オメガ5系、オメガ6系、オメガ7系、オメガ9系などに分類されます。

ここまでのまとめ

脂質は、人のエネルギー源になる栄養素の1つです。
たんぱく質、炭水化物、脂質の3つがエネルギー産生栄養素と呼ばれています。

とくにたんぱく質と脂質は、エネルギー源としてだけでなく、人のカラダを構成するたいせつな材料になっています。

細胞膜や脳のおおくの部分は、脂質で構成されています。

中性脂肪は、グリセロールに3つの脂肪酸が結合したものです。
グリセロールに結合する脂肪酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に分類することができます。グリセロールに結合している脂肪酸の種類によって、脂質の性質や機能がことなります。

リノール酸やαリノレン酸など、多価不飽和脂肪酸に分類される脂肪酸は、体内で合成できないことから必須脂肪酸とされていて、食事から摂取して補給する必要があります。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の分子的なちがいは、炭素と炭素の結合に二重結合があるかどうかでわけられています。
二重結合がなければ飽和脂肪酸、二重結合があれば不飽和脂肪酸です。

一価不飽和脂肪酸は、名前のとおり、二重結合が1つだけあります。二重結合が2つ以上ある脂肪酸を多価不飽和脂肪酸と呼んでいます。

脂肪酸の分類と食品例

炭素数二重結合数オメガ脂肪酸名称食品例
20酢酸
40酪酸バター、チーズ
50吉草酸
60カプロン酸バター
70エナント酸
80カプリル酸ココナッツオイル、バター
90ペラルゴン酸キイチゴ
100カプリン酸ココナッツオイル
120ラウリン酸ココナッツオイル、パーム油
140ミリスチン酸パーム油
150ペンタデシル酸牛乳
160パルミチン酸パーム油、牛脂、豚脂
1617パルミトレイン酸マカダミア油、シーバックソーン油
170マルガリン酸マーガリン
180ステアリン酸牛脂、豚脂
1819オレイン酸オリーブ油
1817バクセン酸
1826リノール酸ベニバナ油、コーン油、大豆油
1833αリノレン酸えごま油、アマニ油
1836γリノレン酸ボラージ草油、月見草油
1835エレオステアリン酸キリ油、ツルレイシ油
1843ステアリドン酸アサ、クロスグリ
200アラキジン酸ピーナッツ
20298,11-エイコサジエン酸
2039ミード酸
2046アラキドン酸牛脂、豚脂、卵
2043エイコサテトラエン酸
2053エイコサペンタエン酸魚油
220ベヘン酸菜種油
2253クルパノドン酸アザラシ
2263ドコサヘキサエン酸魚油
240リグノセリン酸
2419ネルボン酸サバ、サンマ、ニシン
260セロチン酸蜜蝋
280モンタン酸蜜蝋
300メリシン酸

オメガ3系脂肪酸の健康効果

二重結合が2つ以上ある多価不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸です。飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸は非必須脂肪酸になります。

αリノレン酸、DHAやEPAは、オメガ3系に分類される脂肪酸です。これらのオメガ3系に分類される脂肪酸を積極的に摂取した場合やぎゃくに欠乏した場合の健康効果について、数多くの研究結果が報告されています。

オメガ3系脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸ですから、体内で合成できず食事から摂取する必要のある脂肪酸です。オメガ3系脂肪酸の摂取が不足すると、学習機能の低下、不安やうつ、ドライアイになりやすい、皮膚の炎症を起こしやすい、乾燥肌になりやすい、認知症になりやすいといったことが報告されています。

激しい運動をおこなうアスリートを対象にした研究では、オメガ3系脂肪酸の摂取によって、赤血球膜の柔軟性改善、血流改善、血圧の安定化、酸素運搬力の向上、筋肉痛や疲労の緩和などが報告されています。

オメガ3系脂肪酸の筋肉への影響

人の筋肉は、心臓の心筋、内臓を動かす平滑筋、骨格を動かす骨格筋におおきくわけることができます。

骨格筋は、骨格を動かすための筋肉ですから、運動能力にかかわっています。
骨格筋を形成する筋繊維は、遅筋繊維と速筋線維にわけることができます。

遅筋線維は、速筋線維にくらべて収縮速度が遅いですが疲労への耐性が高いため、長時間の運動を継続することができます。
いっぽうの速筋線維は、収縮速度が速いものの疲労への耐性が低く長時間にわって運動を継続することには適していません。

筋線維は、運動不足や加齢にともなって減少します。

高齢者になると筋断面積がおよそ40%減少するという報告があります。このことからも、運動不足や活動量不足や加齢による筋委縮がとくに高齢者にとって無視できない問題だと考えられています。

脚をギプスで固定してほとんど筋肉が活動しない状況で、オメガ3系脂肪酸を1日5g摂取した場合と、オメガ6系脂肪酸を摂取した場合では、オメガ3系脂肪酸を摂取したグループのほうが筋肉の減少量が少なかったという研究報告があります。

さらには、オメガ3系脂肪酸を摂取したグループは、その後の筋肉量が早期に回復したことが報告されています。

オメガ3系脂肪酸の摂取で、筋肉を使わないことによる萎縮を軽減することができて、さらに、筋肉の合成を強化することができるのではないかと考えられています。

脳とDHAと認知症

人の脳では、脂質がおもな構成要素の1つになっていますが、その11〜20%がDHA(オメガ3系脂肪酸)です。
脳のDHAが加齢にともなって減少することが知られていますが、DHAを摂取することで減少をふせぐことができるといわれています。魚などからDHAを摂取することに応じて、脳のDHA量を維持・改善できると考えられています。

日本では高齢者の約15%が認知症またはその予備軍だと報告されています。

認知症の発症年齢や進行速度は、高血圧、糖尿病などの病気による影響や、遺伝子、身体活動量などの影響を受ける可能性があると報告されています。

DHAやEPAを食事から補給することで、神経幹細胞が積極的にニューロンを生み出すことが報告されています。神経幹細胞とは、脳の機能を維持するために必要なさまざまな細胞のもとになる細胞です。

赤血球や血液中にDHAが多くふくまれる人は、視覚的記憶や抽象的スキル、実行機能などが高く、脳の容積が多いこと、また、認知症のリスクが低いことが知られています。このことから、DHAやEPAの摂取が脳の神経細胞量や体積を増やすのではないかと考えられています。

えごま油とうつと認知症

えごまをしぼってできる油は、およそ60%がαリノレン酸というオメガ3系の脂肪酸です。

このえごま油を1日あたり7ml、12ヶ月間摂取したところ、赤血球膜のαリノレン酸とEPAレベルが増加して、うつが改善したことが報告されています。

また、健常な高齢者(平均年齢71歳)が同様に摂取した場合には、抗酸化力が増加することによって前頭葉機能が向上してやる気がもたらされることが示唆されました。

高血圧、肥満、脂質異常症などの基礎疾患は脳動脈を硬化させます。これが結果として脳循環不全を生じさせることで認知症につながるという考えは広く支持されています。脳動脈硬化によって脳循環不全が生じ、結果的に認知症になるリスクがあがることになるという1つの考え方です。

オメガ3系脂肪酸の摂取による虚血性心疾患への予防効果はよく知られていることから、おなじように認知症にも予防・改善効果が期待されています。

オメガ3系脂肪酸と腸

オメガ3系脂肪酸の摂取は腸内の短鎖脂肪酸を増加させます。また、腸内細菌のうち、カラダにいい善玉菌を増加させ、悪玉菌の増殖を抑える作用が報告されています。

脳腸相関(腸の状態が脳の機能に影響をおよぼし、脳の状態が腸に影響をおよぼし、脳と腸が相互に関連しあっていること)をつうじて、オメガ3系脂肪酸による認知症予防やその治療効果が示唆されています。

脳と腸は相互に影響しあっているため、脳機能を健康に維持するには、腸を健康に維持する必要があるということになります。そのために、腸の調子を整えることが期待されているオメガ3系脂肪酸によって脳にもよい影響があたえられるのではないかということです。

高齢者にとってのフレイル(衰弱)やサルコペニア(筋肉量と筋力の低下による身体機能の低下)は、認知症の危険因子とされています。これらの症状は、オメガ3系脂肪酸の摂取によって予防できるのではないかと期待されています。

オメガ3系脂肪酸の抗炎症作用、インスリン抵抗性の改善作用、筋肉でのタンパク質同化作用などによって筋肉量、筋力、身体能力が改善されることで、高齢者のサルコペニアを予防・改善する可能性があると報告されています。

オメガ3系脂肪酸は、フレイルやサルコペニアを予防できる安全で安価な認知症予防食品として、その可能性が示唆されています。

オメガ3系脂肪酸とうつ

疫学調査からの結果をみると、どの世代でも魚摂取と抑うつとに関連があることが示唆されています。

内因性うつ病患者における血中のオメガ3系脂肪酸が対照(年齢・性別でマッチングさせた健常者)とくらべて低下していることが報告されています。

研究結果からは、魚介類摂取はうつ病の予防になることが示唆されています。

日本では気分障害(うつ病・双極性障害)の患者数が統計上、増えています。1990年代には40万人ていどでしたが、100万人を超えるようになりました。要因はさまざまに考えられていますが、食事スタイルが変化してオメガ3脂肪酸の摂取が減ってオメガ6の摂取が増えたことも要因の1つだろうと考えられています。

オメガ3系と6系脂肪酸

オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸は、どちらも多価不飽和脂肪酸です。体内で合成できないため、食物から摂取する必要がある必須脂肪酸とされています。

オメガ3系脂肪酸は抗炎症性、オメガ6系脂肪酸には炎症誘発性があります。

カラダの組成におけるオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率は、およそ食物から摂取する脂肪酸に対応するといわれています。
オメガ6系脂肪酸をオメガ3系脂肪酸よりも多く摂る食事スタイルの場合、カラダを構成する脂肪酸の比率としてもオメガ6系脂肪酸が多くなるということです。

このため、オメガ3系脂肪酸よりも極端にオメガ6系脂肪酸を多く摂取する生活がつづくと、カラダの炎症傾向がつよくなるといわれています。

オメガ3系と6系の関係

αリノレン酸は、オメガ3系脂肪酸に分類される脂肪酸です。DHAやEPAのなかまの1つといえます。

αリノレン酸は、えごま油、アマニ油などにおおくふくまれているため、比較的手軽に摂取できるオメガ3系脂肪酸の1つです。
αリノレン酸を摂取することで、摂取したうちの数%がDHAやEPAに体内で変換されます。

いっぽうで、リノール酸、アラキドン酸といったオメガ6系脂肪酸もオメガ3系脂肪酸と同様に必須脂肪酸ですから、体内で重要な役割を果たしています。

しかし、リノール酸、アラキドン酸などオメガ6系脂肪酸の摂取が増えすぎると、弊害もあるといわれています。オメガ6系脂肪酸の摂取がおおくなりすぎると、心筋梗塞や脳梗塞、アレルギー、炎症の症状が悪化する可能性があるといわれています。

オメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸の過剰な働きをおさえて、バランスをとっているといわれています。

オメガ3系脂肪酸の摂取量を増やして、オメガ6系脂肪酸の摂取量を減らす食事をすることで、適切な摂取バランスをたもつことが脂質を摂取するうえで重要だとされています。

とくに、オメガ3系脂肪酸は、えごま油やアマニ油、魚油など摂取源がかぎられています。これに対して、オメガ6系脂肪酸は、一般的な調理用油に多くふくまれています。
このため、魚を習慣的に食べている場合でなければ、オメガ6系脂肪酸が過剰な状態になりやすいといえます。

食物から摂取するオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸の比率を1:2〜10程度にたもつことによって、過剰な炎症をおさえることができるとされています。また、適切な比率をたもつことでアレルギー症状の改善がみられたという研究結果も報告されています。

そのほか、食品から積極的にαリノレン酸を摂取することで、動脈硬化、血栓、高血圧、免疫機能低下などの予防、改善が示唆されています。
コーン油を摂取したグループよりも、オメガ3脂肪酸が豊富なえごま油を摂取したグループのほうが、気管支喘息の改善がみられたという研究結果も報告されています。

オメガ3系脂肪酸と心疾患

オメガ3系脂肪酸については、過去数十年にわたって健康にあたえる影響や心血管に関する作用など多数の研究がおこなわれています。

1944年には、魚を多く摂取する地域の人びとは、冠状動脈性心疾患(心臓に血液を供給する冠動脈で血液の流れがわるくなり、心臓に障害が起こる病気)を発症するリスクが低いことが報告されています。

その後の研究によって、魚にふくまれるオメガ3系脂肪酸が影響していると考えられています。
オメガ3系脂肪酸の適切な摂取によって冠状動脈性心疾患の発症リスクが下げることが報告されています。

しかし、魚からオメガ3系脂肪酸を豊富に摂取していた地域であっても、大量のトランス脂肪酸やその他の飽和脂肪をふくむ食習慣がその地域にひろまることによって、オメガ3脂肪酸の心血管保護作用を無効にしたり圧倒してしまう可能性があるといわれています。トランス脂肪酸や飽和脂肪酸の摂りすぎには注意が必要かもしれません。

オメガ3系脂肪酸とテロメア

老化の研究においてテロメアと呼ばれるDNAの先端にある組織が注目されています。

テロメアとは、DNAの先端部分にみられる塩基配列の反復構造をいいます。

まず、DNAはA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)が連結されて鎖状になっています。A、T、C、Gそれぞれとてもたくさんの数がいろいろな配列(ならび)で連なってDNAが形成されています。

DNAの先端部分では、TTAGGGの配列が繰返されています。このTTAGGGの配列が繰り返されている部分をテロメアと呼んでいます。人のテロメアではTTAGGGがおよそ2,500回繰り返されていて、塩基数にすると15,000塩基がつらなっています。

DNAのテロメア部分は、基本的に、細胞分裂のたびに短くなっていきます。
テロメアは、細胞分裂にともなって生じるDNAの損傷から守って、DNA情報の安定性を維持するための部分ではないかと考えられています。

テロメア部分の15,000コあった塩基が加齢や細胞分裂のくりかえしによって短くなっていき、6,000塩基ほどになると染色体が不安定になるといわれています。また、2,000塩基になると細胞分裂できない状態になるといわれています。

ヒトの細胞のテロメアは、高齢になると、30%ほど短くなることから老化との関連が注目されているというわけです。
また、テロメアは、細胞分裂で短くなるほか、酸化ストレスなどによって短くなると考えられています。

いっぽう、テロメラーゼとよばれる酵素があって、減少したテロメアを補修して再構成する役割をもっています。

テロメラーゼの活性が高い細胞の場合は、短くなったテロメアを補修します。テロメラーゼの活性が低い細胞の場合は、一般に細胞分裂ごとにテロメアが短縮されていきます。

細胞分裂するときにテロメアが短縮していくことは生物の自然なプロセスだと考えられています。ただ、酸化ストレスや炎症によって、テロメアが損傷して加速的に短くなっていくことが研究で示されています。

炎症や酸化ストレスを軽減する食事習慣によって、テロメアの短縮が軽減する可能性が研究結果によって示唆されています。

このことから、抗炎症作用があるとされるオメガ3脂肪酸の摂取によって、テロメアの短縮を軽減できるのではないかと期待されています。

トランス脂肪酸

トランス脂肪酸は、水素添加によってつくられる硬化油で、マーガリンやショートニングはこの技術による代表的なものといえます。

その後、トランス脂肪酸による心筋梗塞などのリスクが明らかとなったために、2004年にはデンマークで基準値が設けられるようになりました。そして、米国、カナダでも表示義務などの対応がとられるようになった経緯があります。

ただし、自然界にもトランス脂肪酸は存在していて、さまざまな種類のトランス脂肪酸があります。また、一部の家畜由来の食品にはトランス脂肪酸がふくまれています。このように、トランス脂肪酸全体がどのように健康に影響をあたえるかは、ひとくくりにかたることができないものです。

油脂の水素添加反応を硬化反応とも呼びます。水素添加された油脂は硬化油と呼ばれます。
不飽和脂肪酸には二重結合があることを前述しましたが、この不飽和脂肪酸に水素添加することで二重結合の一部またはすべてを飽和結合に変化させる化学反応になります。

植物油に水素添加して硬化油を生成した場合にトランス脂肪酸が生成されます。基本的に植物油にトランス脂肪酸はふくまれていませんので、水素添加によって硬化油にするときにトランス脂肪酸が副産物的に生成されます。
また、硬化油にふくまれるトランス脂肪酸の割合は、一定ではなく使用する植物油の種類や硬化条件によってことなります。

トランス脂肪酸は、飽和脂肪酸やそのほかの脂肪酸にくらべて、LDLを増加させることや炎症を促進させることが報告されています。

そのほか、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状とトランス脂肪酸の摂取量とに関係があることが報告されています。

オメガ3系脂肪酸のじょうずな摂り方

飽和脂肪酸は、動物性の脂肪に多くふくまれています。体内で合成可能なので必須脂肪酸ではありません。また、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、生活習慣病の観点から摂りすぎには注意が必要だとしています。

脂肪酸の種類は、おおきくわけて、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸は、炭素の二重結合が何番目の炭素にあるかによって、オメガ3、オメガ6、オメガ9とわけられます。

オメガ3系脂肪酸は抗炎症作用、オメガ6系脂肪酸は炎症作用、オメガ9系脂肪酸はその中間の作用を示すといわれています。

動物性の脂肪には、飽和脂肪酸が豊富にふくまれています。外食や加工食品は一般的にオメガ6脂肪酸が豊富にふくまれています。オメガ3系脂肪酸は、えごま油などごく一部の植物油や魚にふくまれています。

一般的な食生活においては、飽和脂肪酸やオメガ6脂肪酸を過剰に摂取しがちで、オメガ3脂肪酸が摂取不足になりがちです。

多価不飽和脂肪酸のオメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸はともに必須脂肪酸ですので、食事から摂取する必要があります。

もしすでに飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸を摂りすぎている場合、そこへさらにオメガ3系脂肪酸を摂ると脂質の摂りすぎやカロリーオーバーになってしまいます。
その場合は、飽和脂肪酸やオメガ6系の摂取を減らすようにして、減らしたぶんをオメガ3系で補うようにするといいでしょう。

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」は、18歳以上の男女の飽和脂肪酸摂取の目標量を、総摂取エネルギーの7%相当以下としています。
ちなみに、2005〜2007年度に農林水産省が試験的に行った飽和脂肪酸の摂取量の推定によると、通常の食生活において20歳以上の日本人が摂取している飽和脂肪酸の平均的な量は、総摂取エネルギーの8.2%に相当する量でした。
平均的な食生活では、やや飽和脂肪酸の摂りすぎになるようです。

また、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、総脂質からの摂取エネルギーが総摂取エネルギーに占める割合の目標量を、1歳以上の男性・女性で20%以上30%未満としています。つまり、総摂取エネルギーのうち20〜30%を脂質から摂取することを目標量としています。

これに対して、2019年国民健康・栄養調査の結果(厚生労働省)によれば、脂肪エネルギー比率が30%を超えている人の割合は、20歳以上の男性では約35.0%、20歳以上の女性では約44.4%という結果が示されています。
こちらも、食生活のスタイルによっては、脂質をひかえることを検討してみてもいいかもしれません。

たとえば、1日2,400kcal摂る人が、そのうち500〜720kcalほどを脂質から摂取するとします。脂質は1gあたりおよそ9kcalですので、55g〜80gを1日に摂取することになります。

総摂取エネルギーの7%を飽和脂肪酸で摂るとすると、およそ18gになります。1日の脂質の総摂取量を60gと考えると、残りは42gです。
オメガ3系脂肪酸1に対してオメガ6系脂肪酸が8の割合で摂取すると考えると、オメガ3系脂肪酸としては、およそ4g以上の摂取が目安になります。
オイルは、こさじ1杯でちょうど4gです。

まとめると、飽和脂肪酸18g、オメガ6系脂肪酸38g、オメガ3系脂肪酸4gといった感じになります。

ただ、オメガ3系脂肪酸を1日におよそ4g摂るのは、現実的にはなかなか容易なことではありません。
魚にはオメガ3系脂肪酸であるDHAやEPAが豊富にふくまれていることはよく知られています。そのなかでも比較的オメガ3系脂肪酸が豊富だとされているサバおよそ1切れあたり、1〜2gていどです。
αリノレン酸もオメガ3系脂肪酸で、えごま油やアマニ油などに豊富にふくまれています。えごまの子実を絞った油であれば、およそ60%がオメガ3系脂肪酸になります。
こういったαリノレン酸が豊富な植物油をくみあわせながら、オメガ3系脂肪酸を補給するのも1つの方法でしょう。

参考

筋組織におけるオメガ 3 系脂肪酸の役割
ω3 系脂肪酸による認知症予防
トランス脂肪酸問題の現状
心筋細胞にもテロメラーゼが重要な役割
The potential nutrigeroprotective role of Mediterranean diet and its functional components on telomere length dynamics
必須脂肪酸バラン冬(a-リノレン酸/リノール酸)と健康
α-リノレン酸の必須性と機能
EFFECT OF THE α-LINOLENIC ACID ENRICHED DIET ON ATOPIC DERMATITIS.
気管支哺息に対するd一リノレン酸強化食の臨床効果
Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids and Cardiovascular Diseases
Efficacy of eicosapentaenoic acid in inflammatory depression: study protocol for a match-mismatch trial
オメガ 3 系脂肪酸からうつ病・不安にアプローチする科学的根拠に基づく食によるメンタルヘルスへのアプローチ
日本人の食事摂取基準(2020 年版)
八戸港に水揚げされるサバの粗脂肪、DHAおよびEPAの季節的変化の把握と粗脂肪簡易測定法の検討

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