赤ミミズ由来の酵素ルンブロキナーゼ

赤ミミズ由来の酵素ルンブロキナーゼ

ルンブルクス・ルベルスという赤ミミズにふくまれるルンブロキナーゼという酵素が、血栓を溶かすことで注目をあつめています。

この記事では、この脳梗塞や心筋梗塞の原因といわれる血栓を溶かすルンブロキナーゼについて、世界一わかりやすく説明します。

ルンブルクス・ルベルスとルンブロキナーゼ


ルンブルクス・ルベルス(Lumbricus rubellus)は、体長数cmで赤褐色のミミズです。

ルンブルクス・ルベルスの頭部側には、血管内にできる血栓というかたまりを溶かす酵素がふくまれていることが知られています。

食習慣や運動習慣、それから加齢などによって、血管内にできた血栓が溶けにくくなることがあります。そうすると、血栓が溶けないまま、血管を詰まらせることで脳梗塞や心筋梗塞の原因の1つになります。

ルンブルクス・ルベルスに含まれる成分が血栓の主要成分を溶かす作用があることが1990年頃、研究結果として報告されました。

血栓を溶かすルンブルクス・ルベルスの成分は、ルンブロキナーゼと名付けられました。ルンブロキナーゼは、正確には、血栓の主要成分であるフィブリンというたんぱく質を溶かします。

血栓を溶かす食品の発見

血栓や脳梗塞、心筋梗塞は、生活習慣病とされています。
これらは生活習慣によって予防率が上がったり下がったりするものです。

経済発展など、さまざまな要因で日本をはじめ多くの国で生活習慣病が問題になっています。
現代的な、偏食、食べすぎ、飲みすぎ、運動不足などが生活習慣病のリスクを高めています。

一般的な生活環境には、高血圧やいわゆるどろどろ血などになりやすい状況がたくさんあるといえます。こういった環境のなかで、偏食や運動不足などが日常的になると、血栓が溶けづらくなったり高血圧になるなどして、脳梗塞、心筋梗塞などの重大な症状引き起こすリスクが高まります。

血栓で重要な血管が詰まって脳梗塞や心筋梗塞などになった場合には、ウロキナーゼという血栓を溶かす成分が知られていました。血管を詰まらせている血栓を早急に溶かして血流を戻してあげるために用いられます。

当初、ウロキナーゼは価格がとても高いものでした。ウロキナーゼが高額なこともあって、ウロキナーゼにかわる血栓溶解作用をもつ成分の発見が求められていました。

そういった背景もあって、血栓を溶かす食品についての研究がされていました。

たとえば、納豆や焼酎に血栓を溶かす作用があるとの研究報告があります。

このような血栓を溶かす作用が実験によって確認されたものの1つとして、ルンブルクス・ルベルスがあるというわけです。

血栓と血栓を溶かす作用

血栓とは、実際にはどういったものなのでしょうか。
また、血栓を溶かすとはどういう作用なのでしょうか。

血栓は、基本的に、カラダのなかの血管が傷ついたときに、その血管から血液が漏れ出ないようにするためのものです。あたりまえですが、血管は完璧に破れないようにできているわけではありませんので、さまざまな理由で血管が傷ついてしまうことがあります。この血管の破れた部分を塞いで血管を修復するためにできるのが血栓です。

人のカラダでは、血管が傷つくと、まず、その傷ついた部分に血小板があつまって、血管から血が漏れるのを塞ぐ応急処置がはたらくようになっています。
ただし、血小板だけでは十分ではありませんので、血小板で応急したあとに繊維状のフィブリンと呼ばれるたんぱく質があつまって凝固します。このようにしてできたかたまりを血栓と呼んでいます。

血栓を溶かすt-PAの作用とは

通常は、血栓ができてしばらくして血管の修復が完了すると、フィブリンは溶かされてかたまりがながされるようにできています。

血栓ができて血液が漏れ出るのを塞いだあと、血管は修復されます。血管が修復されたあともフィブリンを主成分とした血栓が残ると、血管が詰まってしまいます。血管がつまってしまわないように、血管が修復されたあとは、血栓を溶かして流そうとします。

血栓を溶かすときに活躍するのがt-PAという成分です。

t-PAは、血管内皮細胞という血管の内側の細胞から分泌されます。

t-PAは、プラスミノーゲンを活性化して、プラスミンを生成します。

生成されたプラスミンが最終的にフィブリンを溶かして別の物質にかえて血液中にながれるようにします。

血栓を溶かす作用が弱まると・・・

偏食や運動不足など、生活習慣によって、血がどろどろになったり、血管がもろくなったりすることで血栓ができやすく溶けにくい状態にある場合は、血栓が溶けてながされることなく残りつづけて血管をつまらせることになります。

血栓を溶かすためのt-PAが分泌量が減る、プラスミノーゲンが活性化しない、血管がもろいため血栓ができすぎて血栓を溶かすプラスミンの量が足りないなどが生じると、血栓が血管内に残ってしまいます。

血管が血栓でつまってしまうことによって、その詰まってしまった先に血液が行き届かなくなってしまいます。血液が行かなくなるということは、つまり、酸素や栄養もその先の細胞や臓器に運ばれなくなるということです。

たとえば心臓に血液を送り届けることができなくなれば心筋梗塞、脳であれば脳梗塞となります。ほかにも、重要な動脈がつまってしまった場合には、その先で酸素不足、栄養不足などが生じて、細胞や臓器が機能しなくなってしまいます。

脳卒中について


脳卒中は、日本人の死因で上位を占める病気となっています。

脳卒中は、脳の血管が破れる「脳出血」、脳動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」、脳の血管が詰まる「脳梗塞」に分類されます。

1960年代半ば以前では、日本では高血圧が要因となる脳出血がきわめて多い状態でした。その後、血圧を良好にコントロールできる降圧剤の開発などが進んだため脳出血が減少しました。

国立循環器病研究センターの調べによると、脳卒中のうちわけは、脳梗塞74%、脳出血19.5%、くも膜下出血6.5%となっています。

脳卒中の原因としては、高血圧が大きな要素の1つとなっているといわれます。高血圧は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のいずれの原因にもなり得ると考えられています。

高血圧が長くつづくと、動脈硬化が進行して脳の血管が詰まることで脳梗塞になります。
おなじ高血圧でも程度の高い高血圧の場合は、脳の血管が破れて脳出血になったり、また脳の血管の一部分に動脈瘤ができて破裂してくも膜下出血になります。

予防につながる食べ物としては、野菜や果物、大豆があります。
ウォーキングなどの軽い有酸素運動で血流をよくすることも効果的といわれています。

ルンブロキナーゼの臨床研究

ルンブロキナーゼは、t-PAを活性化してフィブリンを溶解することが研究報告されています。

ルンブロキナーゼを発見・命名した美原恒(当時:宮崎医科大学)氏のもとには、さまざまな臨床研究の結果がつたえられていることが、同氏の論文により報告されています。

ミミズの冷凍乾燥粉末を摂取することで、糖尿病の改善、糖尿病による食事制限の緩和などがあったとしています。ただし、症例数も少ないため、さらなる研究が必要であるとしています。
糖尿病の改善の可能性については、すい臓の微小な血管にフィブリンが沈着し、それによってインシュリンの産生がうまくいかないことにより発生する糖尿病に対して、微小血管のフィブリンが溶解してすい臓機能が回復することによって改善されるのではないかと考察されています。

数年前に閉経した60歳の女性が摂取したところ、月経があるようになったという報告もされています。加齢とともに内分泌臓器の微小な血管の血栓によるつまりが溶けてなくなることで、臓器が回復する可能性が考察されています。

そのほか、ルンブロキナーゼの摂取による肝機能障害の改善、HDLコレステロール・LDLコレステロール値の改善、視力改善、頭鳴り・耳鳴りの改善が研究報告されています。

重要な臓器は、酵素やホルモンを分泌したり、全身に運搬するために、毛細血管をふくむ循環系が巧妙に機能しています。

このことから、微細な血管にも血栓ができているのではないかと考えられています。また、加齢にともなって、血栓ができやすく、また溶けにくくなっているのではないかとも考えられています。

t-PAを活性化したり、プラスミンが適切に機能することで血栓が流れて、脳、すい臓、肝臓など繊細な臓器の機能が向上するのではないかと期待されているというわけです。

こういったことから、t-PAの活性化などは、劇的になにかの症状を改善、治癒させるというものではありません。

血管内のアカのようにたまった血栓を洗い流すイメージです。
血栓が適切に洗い流されれば、血管がきれいになって血液がとどこおりなく流れることで、脳、肝臓、すい臓など重要な臓器をふくめて、全身に血液が行き届くようになります。

結果的に、脳機能が回復して認知症の改善になったり、すい臓機能が回復して糖尿病の改善になったりするケースがあると考察されています。

ですから、血管がきれいになったからといっても、生活習慣の乱れなどでそもそもそこに流れる血液成分がよくないものであれば、意味がないといえるでしょう。

適切な食習慣と適度な運動習慣がもっともたいせつな基礎になるといえます。

参考文献など

※『国循脳卒中データバンク2021』(国立循環器病研究センター:2021年)
※『みみずの線溶活性物質とその有用性』(美原恒氏:宮崎医科大学:1991年)
※『ミミズの作用による肥沃土の形成およびミミズの習性の観察』(ダーウィン:1881年)
※『頭鳴の線溶酵素による治療的診断』(森満保:2017年)
※『よごれた血管がキレイになる』(堀智勝:2020年)
※『成人におけるルンブルクスルベルス末の臨床試験』(山本昌弘, 徳田泰子, 芦田康示, 谷幸治:2007年)

Share this post